あらせんstyle

教育委員会の指導主事として学校関係者に生徒指導に関する指導助言や、学校心理士として保護者や児童にカウンセリングなども行なっている。小学校教諭を16年間勤め、関わった子供は約3500名。2014年には総合学習の実践で第63回読売教育賞 最優秀賞を受賞。著書「いじめ2.0 ~新しいいじめとの戦い方~愛育出版」

この子さえいなければではなく、この子がいるから成長できる

 Aくんとの出会いは、私にとって財産です。


 彼は、4月当初、授業中に大きな声を出したり、走り回ったり、
 友達の消しゴムを窓から投げたりしました。
 私が黒板に字を書くと「汚い字やな」と発言。
 彼の机の周りは、鼻を噛んだティッシュ、プリントなどが散乱。
 ランドセルはずっと机の上に置いたまま。

 注意すると、
「特別扱いするな!!」
 と、悪の行動をますますエスカレートさせるのです。


 周りの子から「荒井先生、怖い・・。このクラス嫌や・・。」
 同僚からは「やっぱり荒井もあかんかったなぁ・・・。」
 そんな声が聞こえてきます。

 私は、もうどうしていいのか分からなくなっていました。
 気がつくと、私は学校に行くのが怖くなっていました。
 この時が私の教師人生で最大のピンチだったと思います。

 そんな時、私が信頼する先輩に相談した際、
 アドバイスしてくれた言葉が、
 私の人生に影響を与えた言葉になりました。

 それは、
「A君さえ、おらんかったらと思っているやろ。
 A君がいるから教師として成長できるんやで!彼に感謝せえ。」

 この子さえいなければではなく、

 この子がいるから成長できる
 
って考えなあかん。と言ってくれたんです。

 

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 腹が決まった私は、彼ととことん向き合おうと、
 5月の連休明けに、
「今年の目標」を書く授業をしました。
 彼は案の定、目標を書く紙を丸めて投げ捨てました。
 私は本気でした。
 彼に絶対に書かせようと心から話しました。
 でも彼はなかなか書こうとしません。
  
 ようやく帰る前に、
 彼は目標を書いた紙を、私に手渡しました。
 その目標を見てびっくり!
 なんと!
「今年こそ暴れない」
 と書いていたのです。

 彼は本当は、暴れたくなかったのです。
 その心を分かってあげられなかった私は、
 彼を人がいないところに連れていき、泣いて謝りました。

 そして約束しました。
「授業中、どうしても我慢できなくなったら先生にサインを送ってな」と。
 その日を転機に、彼と少しずつ心が通うようになっていったのです。
 学級もしだいに落ち着いていきました。

 終業式の日。彼から

 

先生ありがとう」


 と書いてある手紙をもらった時はまた涙しました。
 彼との出会いで

「自分が変われば相手(環境)が変わる」

「人間の可能性を信じ抜く勇気」

 を学びました。

 日々、「これさえなければ・・」
 とよく思ってしまうことがあります。
 そんな時、彼との関わりを思い出します。

 彼は今頃、どこで何をしているのでしょう。
 彼と会って語りたいな。